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芸術監督より-2015-

劇団衛星代表・蓮行であります。
私がアートコミュニティスペースKAIKAの芸術監督に就任してから、早くも5年が経ちました。しかし、舞台芸術を取り巻く状況はあまり好転していないように感じます。非力を恥じるばかりです。そして、社会情勢としては、はっきりと「さらに、加速度的に悪くなった」と思います。「舞台芸術を世の為、人のため」と気負っては来たものの、重ねて不明と非力を恥じるばかりです。

幸いなことに、KAIKAは未だ「たたまなければならない」状況までは追い詰められていません。この情勢の中で、生きながらえて来たことだけでも、おおいに誇るべきことなのかもしれません。スタッフの努力と成果によるものです。それに応えるためにもしぶとく生き延びて、次にこの場にご挨拶を書く機会があれば、華々しく威張れるようにしたいと思います。

2010年2月の【芸術監督就任に寄せて】に記した志を再掲し、その継続を宣言します。

2015年3月30日

芸術監督就任に寄せて

劇団衛星代表・蓮行であります。この度、劇団衛星は新しく立ち上がりましたアートコミュニティスペースKAIKAのメインフランチャイズ劇団となりまして、その代表たる私が、芸術監督を拝命しました。

特に誰にも何も期待されていないKAIKAですが、その芸術監督に就任したことを、一方的に「厳粛に」受け止めております。

なぜ、厳粛に受け止めているかと言うと、時代の要請を感じるからです。KAIKAが、というのではなく、このような民間の小劇場が、全国で同時多発的に成り立ちつつあり、KAIKAはその中でも第2波、第3波くらいのものです。このような、とはどのようなものを指すかと言うと、「非首都圏の、民設民営の小劇場」です。それらが複数の地域で成立したのは、偶然ではなく、時代の要請という必然を感じるのです。そして、その波に当事者として関わることができるのは、演劇人として本当に幸せなことです。

数年前の、全国規模で行なわれたとある調査(国が実施しました)で、私は衝撃を受けました。「この1年間に1度でも、劇場・演芸場に行ったことがある」という設問に「はい」と答えた人は、わずか1割でした。劇団四季や宝塚や吉本新喜劇や寄席も含め、年に1回でも行った、という人が1割です。舞台芸術は、この国の国民の9割には、全く無関係のものだったのです。

世界的に見ても、ここまで「舞台芸術」が無い国は、稀なようです。さらに言えば、日本でもここまで「舞台芸術」が無い時代も、稀なようです。かつては「村芝居」という風習が全国にあり、それを上演する芝居小屋も、全ての村にあったとまで聞いています。戦後、舞台芸術はどうやら徹底的に社会からつま弾きにされていったようです。

なぜつま弾きになったのかを論じるのはここではやめにして、少なくとも舞台芸術が「国民の9割には無関係」な国づくりをしてきた日本は、戦後の半世紀弱は、成長と豊かさを謳歌してきました。私も両親や先輩を尊敬して生きてきました。舞台芸術は、あまり必要が無かった時代だと言えるのかもしれません。

しかし、バブル崩壊後の約20年、漠とした言い方になりますが、この国はダメーになっていっています。それに異論を唱える方はほとんど居ないでしょう。特に、非首都圏の地域のシャッター通り化などは、本当に荒涼としたもので、国がどうという以前に、「食う寝る処に住む処」が、どんどん崩壊し、危機に瀕していると実感します。

そこでようやく、「時代の要請」に戻るのですが、私は演劇の専門家ですが、最近は実に様々な方々、業種、シーンから「演劇を取り入れた@@に取り組みたいのですが…」というお誘いを受けます。文部科学省は、演劇人などプロのアーティストを学校現場に送り込むプログラムを正式にスタートさせました。全国に4000館もあって、明らかにダブついている公共ホールも、「劇場法」を制定してもう一度役割を定義し直そうという動きも出ています。それは、これまで半世紀に渡り完全に無視を決め込み、活用しようともしなかった「舞台芸術の力」を、もう一度見直そう、活かそうという暗黙の「時代の意思」のように感じられます。

この21世紀の世の中に、もう一度「村芝居」のようなものを、新しい形で成り立たせよう、ということなのではないかと。その為に、村芝居の芝居小屋を作る所から、始めようという「時代の要請」なのではないか、と。だからこそ、同時多発的な「小劇場の成立」の動きが全国で散見し、我らがKAIKAもその流れの中で、希有なご縁の積み重ねで、成立したのではないか、と。そんな風に考えると、私はとても厳粛な気持ちになるのです。

地域の住民が何となく集まり、芝居を作ったり、かと思えば全国の最新鋭のとんがった作品が、「これまで一切演劇なんか観て来なかった9割」の人の目に触れたり、そしてそれらを通して、何となく地域が「良く」なる、KAIKAはそんな場所を目指したいと思います。

でも、1つボタンを掛け間違えると、「場所を存続させる」事が目的化して、無理と不幸が生まれるので、あくまで「場所」そのものではなく、そこに宿る「理念」というようなものを大切に、それでもやっぱりなるべく長く、続けていけたらと思います。2代目の芸術監督への政権交替も想定しつつ。

2010年7月2日